オードリー・ヘプバーン主演、『雨に唄えば』のスタンリー・ドーネン監督の1967年の古い映画です。
倦怠期の夫婦を描いたロードムービー。
最近、堺三保さんの映画塾に通っているんですが、そこでの課題映画として観たのであらすじや感想なんかを書いておきます。(専門用語は使わずに書いてます。)
ちなみに堺三保さんはSF作家、翻訳家、脚本家としてアニメの脚本なんかをメインに活躍されていて、あのジョージ・ルーカス監督も映画を学んだ南カリフォルニア大学大学院映画学部の映画制作コースに留学されたりもしている方です。
本作は、ある夫婦の出会いからはじまる12年間のお話で、5つの時間軸が交差して語られるという複雑な作りになっています。
「昔はあんなに愛し合ったのに」系列の映画なので、ラブストーリーですが、恋人同士で観るのは「取り扱い注意」です!結構な確率で暗い雰囲気になります・・・。最後にこの系統の映画を何本か紹介しています。
※古い映画なので、あらすじもネタバレ全開で書いています。あらすじを知ってても面白い映画だと思うので、あらすじを読んでから映画も観てくださいね。
映画データと予告編動画
1967年/イギリス 上映時間:111分
原題:Two for the Road
配給:20世紀フォックス映画
監督:スタンリー・ドーネン
脚色:フレデリック・ラファエル
原作:フレデリック・ラファエル
製作総指揮:アーサー・キャロル
製作:スタンリー・ドーネン
音楽:ヘンリー・マンシーニ
撮影:クリストファー・チャリス
編集:マドレーヌ・ギュ、リチャード・マーデン
<キャスト>
オードリー・ヘプバーン:ジョアンナ・ウォレス
アルバート・フィニー:マーク・ウォレス
ウィリアム・ダニエルズ:ハワード・マンチェスター
エレノア・ブロン:キャシー・マンチェスター
ジャクリーン・ビセット:ジャッキー
クロード・ドーファン:モーリス
ジュディ・コーンウェル:パット
予告編
あらすじ(ネタバレあり)
フランスへ旅行するため、建築家のマーク(アルバート・フィニー)と妻のジョアンナ(オードリー・ヘプバーン)は車で空港へ向かっています。結婚式を挙げたばかりの新婚さんが乗った車とすれ違いますが、彼らのことを冷めた目で見ており、二人が倦怠期にある夫婦であることが分かります。
フランスへ向かう飛行機の中でも二人は険悪で言い合いばかりです。「いいかげんもううんざりだ!出会ったのが不幸のはじまりだったのか?」「こうなることが分かってたらね」「いつからダメになってしまったんだろう?」
飛行機の座席でパスポートをなくしたとマークが大騒ぎしますが、ジョアンナが冷静にそのありかを指摘します。ジョアンナは、マークの行動パターンをよく理解しているようです。
2人の出会いの場面。
12年前の若い2人は船の上で知り合いました。船を降りるときにパスポートをなくしたと騒ぐマークに、ジョアンナが彼のパスポートを見つけてあげたのです。
建築家を目指しているマークはヒッチハイクで建築物を見る旅をしており、ジョアンナは音楽祭に出るために女の子の合唱グループで旅行をしてました。軟派なマークは女の子たちと行動を共にします。なかでも若くて可愛いジャッキー(ジャクリーン・ビセット)に狙いを定めましたが、ジョアンナ以外のメンバーの全員が水疱瘡にかかって旅を続けられなくなってしまいます。仕方なしにマークはジョアンナと2人でヒッチハイクの旅に出ます。「残ったのが私で残念だったわね」とジョアンナは言います。
はじめに好きになったのはジョアンナでした。2人は旅先のホテルで結ばれますが、マークはやや面倒くさそうにしています。「女ってやつは結婚のことしか考えてやがらねぇ」
雨に降られた2人は土管の中で雨宿りをしているうちに眠ってしまいます。起きてみたら、土管は地中海へ運ばれていました。大はしゃぎする2人。浜辺で楽しく過ごしますが、ジョアンナは「明日には帰らないと」と言います。しかし、ジョアンナに惹かれていたマークは帰したくありません。「君がいないと寂しいんだ。」マークは浜辺でジョアンナに、プロポーズをします。
結婚した2人は、マークの昔の女友達キャシー(エレノア・ブロン)と能率コンサルタントの夫、ハワード(ウィリアム・ダニエルズ)の車(クリーム色のワゴン車)で旅をします。キャシーとハワードにはルーシーという名前の7歳くらいの子供がおり、この子供がワガママ放題で、マークはイラつきます。マークは、あまり子供が好きではないのです。「あれでもまだ子供が欲しいか?」「欲しいわ!あの子は嫌だけどね」
空気の読めない子供・ルーシーと、能率コンサルタント・ハワードの細かすぎる性格にもイライラが募り、2人はハワード夫妻とケンカ別れしてしまいます。ハワードはマークに向かって言います。「君は奥さんのことをベイビーと呼んで、彼女の自我を抑圧してるんだ!」結局このハワードの言葉が正しかったことが分かるのは随分後になってからのことです。
マークとジョアンナは、緑の中古のオープンカー(MG)に乗って旅をします。ジョアンナはマークに妊娠したことを告げ、2人は幸せの絶頂期を迎えます。中古車のMGは、エンストを繰り返し、後ろから押さないと走り出さない始末。最後にはエンジンが火を噴いて炎上してしまい消防車に消火してもらう事態になります。
お金のない2人は分不相応なホテルに泊まりますが、ルームサービスを頼むお金がないので、外でハンバーガーや果物を買ってきて内緒でホテルに持ち込みます。ベッドでおおはしゃぎしながらハンバーガーを頬張る2人。お金はないけど、とても幸せな時代があったのです。
このホテルで知り合ったお金持ちのモーリス(クロード・ドーファン)が偶然にも建築家を探しており、マークは建築家として成功の道を進んでいくきっかけに得ます。
子どもができると、子育てに忙しいジョアンナと、仕事に忙しいマークにすれ違いが生じてきます。、マークは外で浮気をするようになってしまいます。小さな子供と3人で赤い小さなコンバーチブルに乗って旅行をしますが、2人は話ができなくなり喧嘩ばかりになります。「セックスは楽しむほど、楽しさが減っていくのはなぜだろう」「儀礼だからよ」
不満を募らせたジョアンナは、モーリス夫人の弟のデイビッドと浮気をしてしまいます。2人が会っている現場を突き止めたマークは激怒します。しかし、ジョアンナは地中海の浜辺を見て、昔の愛し合っていた時代を思い出し、マークの元へ戻ります。
「やっぱりあなたが恋しくて」
「君は僕を傷つけた。だが、戻ってきた。よかった」
マークは「ボクがバカだった」といいます。ジョアンナは「2人ともよ」と言います。2人は仲直りします。
そして、現在。
マークは「あのときは別れる勇気がなかった」と過去のことを蒸し返します。パーティの席でデイビッドと親しげに話すジョアンナを見て、マークは2人の仲を疑います。怒ったマークは、当てつけに近くにいたシンシアという名前の女性をナンパして、モーリスに「ボクの婚約者だ」と言って紹介します。
しかし、ジョアンナと一緒に戻ってきたデイビッドはシンシアとキスをします。デイビッドは「ボクの婚約者のシンシアだ」と言って紹介します。「デイビッドは結婚することになったんですって!」とジョアンナ。完全にマークの勘違いだったのです。
車の中でマークは、パスポートを失くしたとまた騒ぎはじめます。ジョアンナは冷静にパスポートを出します。「ヤな女」「バカな男」と言いあって2人は笑ってキスをします。結局マークのことを一番よく分かっているのはジョアンナなんです。2人を乗せた車が走りだして映画は終わります。
点数と評価
78点
・夫婦や恋人同士では見ない方がいい!
・ジワジワ効いてくる。パートナー関係を考えるよい刺激になる。
感想と解説
課題として観た映画だったんですが、かなり見ごたえがありました。深い映画です。
講義で聴いた話を交えて感想と解説を書いてみます。
とにかく複雑に時間を行ったり来たりするので、かなり大変です。時間軸がバラバラに入り組んでいるだけでなく、すべての時間軸でロンドンから地中海に抜ける同じ道筋を舞台にしているということもあります。時間軸が切り替わるところの演出が面白くて、異なる時代の登場人物がすれ違ったりするんです。映画ならではの上手い演出方法だと思いましたね。
5つの時間軸が複雑に交差するので、2人が乗っている車とジョアンナの髪型を主な手掛かりにストーリーを頭の中で再構成しなくてはいけません。それでも観ていてストーリーが自然と頭に入ってくるのはこの演出が成功している証拠ですね。
5つの時間軸と車
1:ヒッチハイク
2:クリーム色のワゴン車(友人の車)
3:緑の中古オープンカー(MG)
4:赤い小さいコンバーチブル
5:白の高級セダン
数字の順番で時代は流れていきます。この5つの時間軸で、2人の主人公の乗る車のグレードが上がっていくことから、裕福になっていくのが分かります。右肩上がりだった60年代の時代背景も描いています。しかし、裕福になっていくのとは逆に2人の仲は険悪になっていくんですねー。
塾ではシド・フィールドの「三幕八話」の構成を分析する、ということをやっているんですが、どれくらい時間軸が入れ替わっているか、上の番号で列挙したので見てみてください。
■第1幕■
第1話:51352
第2話:12
■第2幕■
第3話:15152323
第4話:535353
第5話:212414141414
第6話:141515131
■第3幕■
第7話:4134
第8話:5
複雑すぎますよね・・・。本当にこうなってるのか意欲のある人は確認してみてください。
時間軸を交差させる効果
こんなに複雑にする意味はあるのか?ということに関しては、
1.良いときと悪いときの対比をはっきり見せることができる。
2.ずっと仲の悪いときのシーンを見てるとツラくなる。
という利点があります。
たしかに、時系列をバラバラにすることで、「こんなにラブラブの時期があったのに、何故こんなに険悪になってしまったんだろう?」という謎解きの要素でストーリーを引っ張ることもできます。
また、映画は楽しく観てもらうことが大切なので、険悪なシーンが続きすぎると観てるのがツラくなってしまいますよね。ラブラブで楽しかったころのシーンを間に挟むことで、口直し的に普通のラブストーリーを観たときのような気持ちのよい感情を持つことができます。
ちなみに、この映画は「謎解きもの」として観ることもできます。最初に険悪なシーンからはじまりますが、「こんなに険悪な2人が、一体どうやって結婚したのか?」という「謎」でストーリーを引っ張ります。もう一つは、「最後にこの2人はどうなってしまうんだろう?」という興味ですね。
時間軸が交差するので、あらすじでは上手く書けませんでしたが、映画のクライマックスは、マークがジョアンナにプロポーズをするシーンです。
後期オードリー・ヘプバーンの最高傑作!?
この映画、上映当時もその斬新な手法が話題になったそうですが、オードリー・ヘプバーンが私生活でも14年間連れ添った夫のメル・ファーラーとの離婚疑惑が取り沙汰されており、現実との境界を曖昧にするようなリアルな演技が絶賛されたそうです。本作は、オードリー・ヘプバーン後期の最高傑作との呼び声も高いです。
ちなみに、マークがはじめに狙いを定めたジャッキーを観て、すごく綺麗な人だなと思いましたが、演じているのは、当時23歳のジャクリーン・ビセットです。この女優さんは、後に大スターになっていきます。撮影当時38歳だったオードリー・ヘプバーンにはさすがに分が悪いですね。
個人的な感想
パートナーと一緒に観たのですが、結構キツかったです。コメディタッチの映画なんですが、まったく笑えません・・・。一応、結末はハッピーエンドではあるんですが、2人のツンデレなキャラクターがぶっきらぼうなんで、最後の仲直りするシーンを観ても「ああ、よかったね」という感じにならないんですよね。いがみ合ってはいるけれど、実は分かり合っている腐れ縁的な夫婦という感じだと思うんですが、傍から見てて全然幸せそうに見えないんです。映画全体を通じて、エグイ台詞も多いですし。(2回観たのですが、特に初見時はキツかったです。2回目は一人で観たこともあってかなり楽しく観れました。)
あとは、スイマセン!御年38歳のオードリー・ヘプバーンに全く魅力を感じませんでした。さすがのオードリーも年齢には勝てず、全盛期の可愛らしさはなく、観ているだけで癒されるということはないです。これが『ローマの休日』時代のオードリーだったら、どんなに怒った顔をしても「ああ、可愛いなぁ(´∀`)」ってな感想になったのかもしれませんが。
ちなみに、最後にマークが次の仕事場としてお呼びがかかるのがローマで、2人はローマに向かうんですが、『ローマの休日』に掛けたんでしょうかねー。
最後はいちおう仲直りしますが、マークはまだ33歳なんですよね。夫婦としてはまだ若造だと思うんですが。人生はまだまだ長いので、この先どうなるか分からないですよねー。夫婦はいつまでも仲良くありたいものですね!
昔はあんなに愛し合ったのに系列の映画
険悪になった夫婦や恋人が、時間を遡って、かつての愛し合っていた関係と対比する系列の映画があります。ぼくがこれまで観た中でおすすめできる4本の映画です。
『ふたりの5つの分かれ路』フランソワ・オゾン監督(2004年)
『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』サム・メンデス監督(2008年)
『ブルー・バレンタイン』デレク・シアンフランス監督(2010年)
『いつも2人で』スタンリー・ドーネン監督(1967年)
いずれの作品も観ていてかなり痛いものがあるので、パートナーと一緒に鑑賞するのはおすすめしません。自分の人生と向き合うために、一人でしっとりと観るのがおすすめです。
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