横道世之介(2013日本)感想と解説

横道世之介
(C)2013「横道世之介」製作委員会

どうも、映画ヒットマンのタイラー・Pです。

沖田修一監督、吉田修一原作の『横道世之介』をAmazonビデオで観たので、感想と解説を書きますね。

映画化された作品は良作が多い吉田修一の原作で、「とにかく吉高の演技がヤバい!」っていう評判を聞いて観てみました。吉高由里子の演技も、主演の高良健吾の演技も、すごく良かったです。

途中までの展開から、スカッとした爽やかな青春映画かと思いきや、次第に深みのあるトーンに変化し、観終わってみれば、登場人物全員が、実際の知り合いだったような気分がジンワリ胸に残る、不思議な映画でした。

映画データと予告編動画

2012年/日本  上映時間:160分
配給:ショウゲート
監督:沖田修一
原作:吉田修一
脚本:沖田修一
プロデューサー:西ヶ谷寿一、山崎康史
共同プロデューサー:西宮由貴、宮脇祐介
ラインプロデューサー:金森保、前田司郎
撮影:近藤龍人
照明:藤井勇
録音:矢野正人
美術:安宅紀史
衣装:纐纈春樹
ヘアメイク:田中マリ子
編集:佐藤崇
音楽:高田漣
音響効果:斎藤昌利
助監督:海野敦

<キャスト>
高良健吾:横道世之介
吉高由里子:与謝野祥子
池松壮亮:倉持一平
伊藤歩:片瀬千春
綾野剛:加藤雄介
井浦新:室田恵介
國村隼:祥子の父
堀内敬子:祥子の母
きたろう:世之介の父・横道洋造
余貴美子:世之介の母・横道多恵子
朝倉あき:阿久津唯
黒川芽以:大崎さくら
柄本佑:小沢
佐津川愛美:戸井睦美

主題歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION

予告編

あらすじ(ネタバレあり)

1987年、長崎から大学入学のため上京してきた横道世之介(高良健吾)は、倉持一平(池松壮亮)、加藤雄介(綾野剛)といった同級生と知り合い、大学生活をスタートさせる。ずうずうしくも憎めないキャラで、様々な出会いと笑いを引き寄せる。サンバ同好会、バイトでホテルのボーイ、年上の謎の女性・片瀬千春(伊藤歩)への憧れ、筋金入りのお嬢様・与謝野祥子(吉高由里子)との恋愛を通じて世之介は成長していく。

倉持一平は同級生の女の子を妊娠させたことで、大学を辞め、就職して結婚することになる。女性に興味がない、つまりゲイである加藤雄介の家に世之介は入り浸るが、加藤はそんなずうずうしい世之介を何故か受け入れてしまう。長崎への帰省時に強引に付いてきてしまった与謝野祥子との間にも恋愛感情が生まれ、二人は付き合うことになる。祥子の大豪邸に招かれ祥子の両親との緊張の対面。スキーで足を折った祥子を見舞う病院で二人の絆はより強いものとなる。

16年後の世之介は、線路に落ちた人を助けようとして電車に跳ねられて死亡していた。16年後にカメラマンとなっている世之介は、大学時代にアパートの隣に住む室田恵介(井浦新)を通じて写真と出会っていた。初めて撮影したフィルムを一番に祥子に見せる約束をしていたが、祥子がそのフィルムを見ることはなかった。世之介の母から16年後の祥子に届けられた手紙から、祥子は世之介の死を知り、16年の時を経て、世之介の初めての写真を見ることになる。

大学の入学式からはじまって、次の桜の咲く季節までの1年間の横道世之介の物語が、「16年後の今」を挿入しながら語られる。

点数と評価

87点
・横道世之介という友人がいたような、ずっと心に残る映画です。
・これまで観た吉高由里子のベストアクトだと思いました。

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『横道世之介』の感想

タイトルだけ見たら何の映画か分かりませんし、「横道世之介」って「お侍さんみたいで変な名前」と思って侮っていましたが、観終わってみれば、まさかこんな青春映画の大傑作とは!

沖田修一監督の作品を観るのは初めてでしたが、かなり好きな感じだったので、他の作品も追いかけてみたくなりました。あと、『桐島、部活やめるってよ』や『そこのみにて光輝く』の近藤龍人さんによる撮影も良い仕事をしていました。

映画を観てまず思うのが、独特の会話テンポです。初対面の人同士の会話が噛み合わない感じとか、うまく聞き取れなくて聞き返す感じとか、非常にリアルで「いい感じ」なのです。会話のテンポをゆったり描いているため、一つひとつの会話のシーンが長く、必然的に映画全体のテンポもゆっくりになります。はじめはまだるっこしく感じましたが、このテンポに慣れてくると逆に心地良くなってきます。2時間40分と、かなりの長尺の映画ですが、この独特の会話のテンポを見せるには必要な尺ですね。無駄なシーンもなく、むしろ「あの原作を、よくここまでまとめたな」と思いました。

高良健吾が演じる世之介の身体の使い方が、おかしくも絶妙です。18、19くらいの年頃の、あの身体を上手くコントロールできていない感じというか、アンバランスな、身体を持て余している感じを非常にうまく表現しています。オシャレなカフェでの小さくなってしまう佇まいや、女の子とのデートの待ち合わせでの軸の定まらない立ち方とか、本当に世之介が愛おしくなります。

しかし、なんと言っても吉高由里子の演技が良かったです。本作の吉高由里子の演技に2度泣かされました。ひとつは、骨折して入院した祥子を世之介が見舞った際に、「何かあったら真っ先に祥子ちゃんに言うから」と言われたときの何とも言えない表情の変化。そんな二人を見て、涙を流すお手伝いさんの一連のシーン。ふたつ目は、車の中で世之介のことを思い出しているときの笑顔から涙を溜めるシーン。吉高由里子は、園子温監督の『紀子の食卓』でのデビューの頃から見ていますが、本当にすごい女優さんに成長しましたね(初めからすごかったですけど)。

ちなみに、もう一つ、この映画で涙を流してしまったのは、カメラマンの隣人・室田の写真展で、世之介が写真の前から動けなくなるシーンです。ああいう思春期に触れたものから衝撃を受けるシーンというのは、キラキラしてて、眩しくって、本当にダメです。人は本当に強い衝撃を受けると、そのことを一生やってしまいます。そして、世之介はカメラマンになります。

映画のラストでは、2週間のパリ留学に行く祥子を世之介が見送るところで終わりますが、これが二人が最後に顔を合わせた機会になります。バスの窓から「世之介、大好き!」と大声で叫んだのに、その後会うことはないのです。世之介が初めて撮ったフィルムを「一番最初に祥子に見せる」という約束が果たされるのは、その16年後になるのですが、どうして二人は別れてしまったのか、祥子は2週間ではパリから戻らなかったのか、他に好きな人でもできてしまったのか、その辺りの人生の不条理を思うと胸が締め付けられます。

世之介が、そして人生が愛おしくなる映画です。すごくおすすめなのでぜひ観てみてください。

『横道世之介』解説

『横道世之介』に関しての解説です。

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横道世之介にはモデルがいた

横道世之介は、2001年に実際に起きた「新大久保駅乗客転落事故」がモデルとなっています。この事故は、山手線新大久保駅のホームで泥酔して線路に落ちた男性を助けようと日本人カメラマンと韓国人留学生が線路に降りましたが、救助が間に合わず、3人とも電車に轢かれて帰らぬ人となりました。この日本人カメラマン、関根史郎さん(当時47歳)が、横道世之介のモデルだとされています。

新大久保駅には、二人の勇気ある行動を称えた顕彰碑があります。

新大久保の顕彰碑

「横道世之介」は、実話ということではなく、あくまでこの事故をモチーフにしたというだけで、話の中身は、吉田修一さんによる完全な創作です。むしろ、世之介の法政大学経営学科卒というのは、吉田修一さんの経歴ですので、ご自身の大学生活を重ねたのかも知れませんね。

なお、関根史郎さんの作品を集めた写真集が出ています。写真集の「まなざし」というタイトルは、映画『横道世之介』で、世之介の隣人のカメラマン・室田恵介の写真展のタイトルとして登場しています。写真集を見てないので分かりませんが、写真展で使われている写真は関根さんの作品なのかもしれませんね。

また、この事故で亡くなった韓国人留学生・李秀賢さん(当時26歳)をモデルにした『あなたを忘れない』という映画もあります。こちらの映画は、日韓友情年2005の記念事業として作成された日韓合作映画で、監督は花堂純次、主演はイ・テソン。

祥子の現在の仕事は?

映画では、現在の与謝野祥子が何の仕事をしているのか、よく分からないままになっています。第三世界を中心に世界を飛び回っていることくらいしか分からないです。原作では、国連の職員として難民支援の仕事をしており、世之介と長崎に帰省した際に、浜辺で難民(ボートピープル)と遭遇したことが、関心を持つきっかけであったことが示されています。

世之介と祥子の別れた理由は?

世之介と祥子がどうして別れてしまったのか、その理由は映画の中では描かれていません。しかし、原作では「大学2年の夏休みにもう原因も思い出せないような些細な喧嘩から」別れてしまったということが示されています。また、原作では国連職員として難民キャンプで働く祥子が、世之介を懐かしく思い出して涙を流すシーンが丁寧に描かれています。

「横道世之介」は人生を俯瞰して描く映画ですから、ふたりが別れてしまった原因は、言ってみれば「どうでもいいこと」なんですよね。若いふたりが恋愛をして、愛し合っていた時間は確かにあったし、想い出はしっかりと胸に残っている、ということが大切なんだと思いました。

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横道世之介

4 件のコメント

  • 私にとってこの映画は特別な存在です。もちろん原作も含めて。
    でも誰かに一番好きな映画は?と尋ねられるとついついマニアックな洋画を答えてしまいます。
    でもまさにそうしている時になぜか「これって世之助っぽいな」と思ってしまうのです。
    いや、世之助だったら素直に答えるかもしれません。それとも私と同じように少し格好つけるかもしれません。
    世之助のことだから、人によって変わってしまうのかもしれません。

    横道世之助は、多くの男性が「ああこういう人になりたいな」と思える人物だと思います。
    でも本当に自身の記憶を辿れば、誰でも、世之助みたいな時があるのではないかと思います。

    いつも世之助みたいに。は難しいのだけど、間違いなく、
    あの時代、あの人といた、あの一瞬のやりとり
    その時の私は世之助みたいだったな。と思える記憶を
    誰でも持っているのではないかな、と思います。

    そして、その記憶は「何故か鮮明に覚えているくだらないこと。」
    だったりすんじゃないのかなと思っています。

    観るたびに、色んな人を思い出し、甘酸っぱい気持ちになる映画です。
    思わず意味もなく、コメントしてしまい、すみませんでした。

    • 振り返ってみると「ほんの些細な、くだらないこと」の積み重ねこそが「人生の輝き」だったりしますよね。
      素敵なコメントをありがとうございます(´∀`)

  • とてもいい映画で大好きです。吉高由里子の役もこれが一番好きです。二人がなぜ別れたのかは大変気になりますけど、何となく深くは触れたくないような気がします。何度も見てしまうので買おうと思ってます。

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