スイス・アーミー・マン(2017米)考察と解説

スイス・アーミー・マン
(C)2016 Ironworks Productions, LLC.

どうも、タイラーPです。
今回はダニエルズ監督による2016年製作(日本公開は2017年)の『スイス・アーミー・マン』のあらすじや考察、解説を個人的な感想を交えてご紹介します。

記事の後半で、ダニエルズ監督が本作の前に撮ったMVショートムービーも紹介していますので、『スイス・アーミー・マン』が気に入った方はぜひチェックしてみてください。

スイス・アーミー・マン:映画データと予告編動画

2016年/アメリカ  上映時間:97分
原題:Swiss Army Man
配給:ポニーキャニオン
監督・脚本:ダニエルズ(ダニエル・シャイナート、ダニエル・クワン)
製作:ローレンス・イングリー、ジョナサン・ワン、ミランダ・ベイリー、アマンダ・マーシャル、エヤル・リモン、ローレン・マン
製作総指揮:ギデオン・タドモア、ジム・カウフマン、ウィリアム・オルソン
撮影:ラーキン・サイプル
美術:ジェイソン・キスバーデイ
衣装:ステファニー・ルイス
編集:マシュー・ハンナム
音楽:アンディ・ハル、ロバート・マクダウェル

<キャスト>
ポール・ダノ:ハンク(主人公)
ダニエル・ラドクリフ:メニー(万能死体)
メアリー・エリザベス・ウィンステッド:サラ(ヒロイン)

スイス・アーミー・マン:予告編

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スイス・アーミー・マン:あらすじ(ネタバレなし)

無人島で絶望して自殺しようとした主人公の青年(ポール・ダノ)が、漂着した水死体(ダニエル・ラドクリフ)を多機能に使ってサバイバルする。

孤独だった青年は死体に話しかけることで、生きる力を取り戻していく。二人の間には奇妙な友情が芽生える。主人公が試みる無人島からの脱出は、孤独でどうしようもない人生から脱出する旅でもあった。

ジャンルは、ブラックコメディ&こじらせ男の青春物語。

点数と評価

60点
・シュールすぎる設定についていけるかが、作品を楽しめるかどうかのポイント
・こじらせ男のセラピー映画、ハマる人はハマるかも。

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スイス・アーミー・マン:考察と解説(ネタバレあり)

タイトルの「スイス・アーミー・マン」というのは、もちろん「スイス・アーミー・ナイフ」のもじりです。 「スイス・アーミー・ナイフ」 というのは、何種類もの用途に使える”多機能ナイフ“のことですが、この映画は、”ナイフ”ではなく”死体“を多機能に使ってサイバイバルします。

スイス・アーミー・ナイフ
スイス・アーミー・ナイフ

ハリーポッター(ダニエル・ラドクリフ)の死体は、オナラのジェット噴射で水上を走ったり、口から飲み水が出てくるし、歯で髭を剃ったり、髪の毛を切ったりもできます。さらに、口に石を入れてガスの力で発射することで、鳥を打ち落としたり、目標地点を指し示すコンパスの役目まで果たしてくれます。しかも、死体なのに喋ります。

と聞いても訳が分からないと思いますが、この、ものすごくシュールな設定を受け入れることができるかどうかが、この映画を楽しめるか否かを分ける気がします。

この映画の楽しみ方として、トム・ハンクス主演の『キャスト・アウェイ』(2000米)では、バレーボールに”ウィルソン”という名前をつけて、心の支えにしていましたが、“ウィルソン”が突如話し始めたバージョンの映画だと思えばいいのかもしれません。

また、この”万能死体”を演じているのが、あのハリーポッター役のダニエル・ラドクリフだということを認識した上で映画を観るのとそうでないのとでは、面白さが随分と変わってくると思います。「ダニエル・ラドクリフは、よくこの役を受けたなぁ」と思いましたが、インタビューを読むと「この役を受けるのに迷いはなかった」と言っていました。

ダニエル・ラドクリフの死体を使って無人島をサバイブする、悩める青年ハンクを演じるのはポール・ダノです。ポール・ダノは、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007米)での胡散臭い神父や、『リトル・ミス・サンシャイン』(2006米)でも悩める青年を演じていました。自信なさげな陰のある役をやらせたら天下一品です。

監督は、ダニエル・シャイナートダニエル・クワンという2人のダニエルで、”ダニエルズ”という監督ユニットです(ファーストネームが同じなだけで、兄弟でも何でもありません)。2人はMV出身ですが、MV時代の作品(記事後半で紹介) を観ると 、MV時代からやってることは同じなんです。つまり、「強烈なネタ」ありきってことです。

ダニエルズ監督が、2人で『スイス・アーミー・マン』の企画を考えたときも
「ちょい、俺っち、思いついちゃったんだけど」
「どんなん?」
「オナラを噴射して水上を走る死体なんてどうかな?」
「ヒャッハー!それ、最高だぜ!」
「じゃあ、その死体のチ〇コが方位を指し示すとかどうよ?」
「マジかよ!?それも入れようぜ!」
なんてケラケラ笑いながら2人でアイデアを出し合っている姿が目に浮かびますよ。

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さて、 『スイス・アーミー・マン』 は、無人島のサバイバルものかと思いきや、こじらせ青年ハンクの自意識を巡る物語に展開します。ハンクは、ハリーポッターの死体に話しかけることで自分の内面を打ち明けていきます(死体は途中から喋りはじめる!喋りはじめた死体にビックリしたハンクが、驚いて死体をブン殴るとこ、好きです笑)。

ハンクは憧れのヒロイン(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)の写真をスマートフォンの待ち受け画面にしていますが、完全な片思いで、話しかけることすらできなかったヘタレです。しかも、ヒロインを好きだったのは自分ではなく、死体のメニーだと嘘をつきます。

森の材木や廃材を使って実物大のバスの模型をつくり、ハンクは女装してヒロイン役を演じ、死体のメニーに自分(ハンク)の役をやらせて、バスでの一目ぼれの場面を再現する演劇のようなことをします。この再現セラピーが効果を発揮したのか、ハンクの表情はイキイキと輝き出し、次第に生命力を発揮しはじめます。

そして、死体のチ〇コが指し示す方向へと進んでいくと、人里にたどり着きます。なんと、ヒロインの住む家が目の前にあります。

ヒロインは結婚しており、旦那も娘もいます。ヒロインはハンクのことを知りもしませんが、ハンクの持つスマホの待ち受け画面は、なぜか彼女の写真です。突如、庭にボロボロの男が死体と一緒に現れて、自分を待ち受け画面にしたスマホを持っているんです。そりゃ、ハンクは完全に変質者扱いです。

警察やマスコミが集まってきて、死体は回収されそうになりますが、ハンクは死体を離そうとしません。

ラスト、「皆にみせてやる」といって”オナラ”を放つハンクは、「過剰に人目を気にして生きてきた自分」に別れを告げ、現実世界を生きはじめます。

そこに、なんと奇跡が!死体のメニーが皆の見守る中、オナラを噴射して海の彼方へと消えていくんです。満面の笑みを浮かべて。

呆気にとられるヒロインやハンクの父親、マスコミの中で、ヒロインの娘だけがケラケラと笑っています。ラストカットのハンクの笑顔は「友よありがとう。俺は生きるよ。この現実を。」と言っているようでした。

人は、たったひとりの理解者がいれば、この世界を生きていけるのかもしれません。それがたとえ死者であっても。

もちろん、死体がしゃべったりする訳はなく、この映画で起こったことのほとんどは、主人公の妄想なんじゃないでしょうか。そもそも無人島にすら漂着しておらず、自分の住む町から森のなかに逃げてきただけにも思えます。(そのあたりの整合性は考えすぎても意味はないです。リアリティラインを無視したナンセンスギャグ映画なので)

以上、相当にクレイジーな映画ですが、不思議な魅力のある映画です。さすがMV出身の監督が撮っただけあって、映像は綺麗だし、要所要所でエモい撮り方をしてるんですよね。死体のメニーが歌いはじめる音楽もいいですし。

こうやって書いてきても、よく分からない不思議な映画でしたが、変わったコメディ映画が好きな方は、ぜひチェックしてみてください。

ダニエルズ監督によるMVなど

『スイス・アーミー・マン』は、ダニエルズ監督による初の長編映画です。ダニエルズ監督は、MV(ミュージック・ビデオ)出身です。

以下、3本の作品をご紹介しますが、いずれも”奇抜な発想“ありきの”ネタ一発“的な作品で、『スイス・アーミー・マン』 と通じるものがあります。強烈な作家性を持った2人であることがよく分かります。

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【MV】Battles “My Machines”

エレベーターで転んだ男がずっと転がり続けるというワン・カメラ撮影によるPVです。かなり笑えますが、不思議とカッコいいです。

【MV】 Foster The People “Houdini”

発想が『スイス・アーミー・マン』 とかなり似ています。
落ちてきた照明に潰されて死んだバンドメンバーの死体を、黒子が操り人形のように動かしたり、アンドロイドとして蘇らせたり。とんでもない内容ですが、独特のセンスを感じます。

【ショートムービー】Interesting Ball

跳ねるボールのゆく先々でドラマが起こる、シュールなショートムービーです。
お尻の穴に足が入ってしまったり、巨大な人型の組体操がゴジラのごとく暴れたり、訳わからんですが発想のぶっ飛び方が「すごい」のひと言です。

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スイス・アーミー・マン

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