2016年のアカデミー賞では3部門ノミネート(作品賞、助演女優賞、脚色賞)で、賞こそ取れませんでしたが、アメリカ本国でも、かなり評判がよく、事前に観た人も絶賛していたので、かなり楽しみにしていた映画です。
10月1日の映画の日に、新宿TOHOシネマズで観てきましたよ。日曜日で映画の日ということもあって、さすがに満席になってました。
1960年代のNASAのマーキュリー計画を支えた3人の黒人女性の数学者のお話です。当時はまだ厳然とした黒人差別があり、しかも女性の地位がまだ低かった時代で、2重のハンディキャップを背負った3人の天才が、誇りと信念と実力により周囲に認められていきます。とても勇気を貰えるし、元気になれる映画です。
主人公は写真の真ん中に写っている、ちょっと柴田理恵さん似のメガネの女性です。一番ルックスの良い左の女性が主人公だと思って観ていたらちょっと「あれ?」って感じになったので、これから見る人は「真ん中の女性が主人公なんだな」と思って観てください。ちなみに原作では右の女性が主人公です。
ホント、ものすごく良い映画なので、多くの人に観てもらいたいですね。
個人的にも今年のベスト級で、年間ランキングでもかなり上位に入ってくることになるであろう作品です。
※あらすじでネタバレしてますので、ネタバレが嫌な方は、映画を観たあとで読んでください。
映画データと予告編動画
2016年/アメリカ 上映時間:127分
原題:Hidden Figures
配給:20世紀フォックス映画
監督:セオドア・メルフィ
製作:ドナ・ジグリオッティ、ピーター・チャーニン、ジェンノ・トッピング、ファレル・ウィリアムス、セオドア・メルフィ
製作総指揮:ジャマル・ダニエル、ルネー・ウィット、イバナ・ロンバルディ、ミミ・バルデス、ケビン・ハローラン
原作:マーゴット・リー・シェッタリー
脚本:アリソン・シュローダー、セオドア・メルフィ
撮影監督:マンディ・ウォーカー
美術:ウィン・トーマス
衣装:レネー・アーリック・カルファス
編集:ピーター・テッシュナー
音楽:ハンス・ジマー、ファレル・ウィリアムス、ベンジャミン・ウォルフィッシュ
<キャスト>
タラジ・P・ヘンソン:キャサリン・G・ジョンソン
オクタビア・スペンサー:ドロシー・ヴォーン
ジャネール・モネイ:メアリー・ジャクソン
ケビン・コスナー:アル・ハリソン
キルステン・ダンスト:ビビアン・ミッチェル
ジム・パーソンズ:ポール・スタフォード
マハーシャラ・アリ:ジム・ジョンソン
キンバリー・クイン:ルース
グレン・パウエル:ジョン・グレン
オルディス・ホッジ:レビ・ジャクソン
予告編
あらすじ(ネタバレあり)
『ドリーム』のざっくりあらすじです。
幼い頃から天才数学少女として育った黒人のキャサリン・G・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン)は、同じく黒人女性の数学者、ドロシー・ヴォーン(オクタビア・スペンサー)とメアリー・ジャクソン(ジャネール・モネイ)と共にNASAのラングレー研究所で働いています。
時は1961年、1957年の人工衛星の打ち上げ(スプートニク・ショック)でソ連に遅れをとったアメリカは危機感を募らせていた時代です。
NASAの黒人グループのリーダー格であるドロシーは、管理職への昇進を希望していますが、お堅い白人上司のミッチェル(キルスティン・ダンスト)に「黒人グループに管理職は置かない」と冷たく却下されてしまいます。
メアリーは技術部へ転属されますが、黒人女性であるためエンジニア登用に求められる学位が得られずに諦めモードになっています。ユダヤ人の上司に「君のような才能ある女性はエンジニアになるべきだ!君が白人男性だったらエンジニアを目指しただろ?」と言われ、「白人男性だったら、もうエンジニアになってますよ。」と答えます。
キャサリンも黒人女性として初めて宇宙特別研究本部に配属されますが、そこは黒人女性であるキャサリンにとって障害の多い職場でした。アル・ハリソン(ケビン・コスナー)は公平で頼れるリーダーでしたが、直属の上司であるポール・スタフォード(ジム・パーソンズ)は、機密事項だからといって部分的に黒塗りされた書類しかキャサリンには見せてくれず、職場の皆は黒人女性であるキャサリンと同じコーヒーを飲むことを嫌がり、黒人用のコーヒーポッドが別に用意されていました。一番つらいのは、黒人用のトイレがないため、一日に何回も1キロ近く離れた黒人用のトイレまで用を足しに走らなくてはならないことでした。
ここまでが第一幕で、3人の主人公の課題と目標が提示されます。
キャサリンは、3人の子供を持つ未亡人ですが、教会のパーティで軍人中佐のジム(マハーシャラ・アリ)といい感じになっていきます。しかし、初対面のときには、女性を軽視するジムを誇り高き女性であるキャサリンは冷たく突き放します。その後、ジムは謝罪し、家族ぐるみで親密になっていき、感動的なプロポーズへ到ります。このキャサリンとジムの恋愛が物語のサブエピソードとして語られます。
黒人女性のキャサリンに黒塗りの書類を渡し検算を要求する上司のポールでしたが、キャサリンは黒塗りを光で透かし見て、アトラスの打ち上げに関する計算であることを見抜きます。そして、黒板に計算式を書き上げます。キャサリンがトイレに行っている間に、その計算式は「一体、誰が書いたんだ?」と注目を浴びます。これがきっかけとなり、ハリソンはポールに、「キャサリンに渡す書類を黒塗りにする必要はない!」と命令します。キャサリンは実力を見せつけ、見事に認められたのです。
ドロシーは、NASAに導入された高性能の計算機、IBMに目を付けました。コンピューターが導入されれば演算能力で人間に勝ち目はありません。先見の明を持つドロシーは、コンピューター言語を学び必要性を感じ、FORTRUN(フォートラン)を学びはじめます。白人しか入れない図書館からFORTRUNの専門書を持ち出します。「お母さん、本を盗んできたの?」という息子たちに対して、「図書館の本は私たちの税金で買ったものだから、盗んだことにはならないのよ」と言います。
NASAでは、ソ連のガガーリンが初の有人宇宙飛行に成功したこを受けて、さらなら危機感を高めていきました。ハリソンは「今日から残業だ!しかし、残業代は出ないと思え!」と職員に激を飛ばします。
トレイに行くためにたびたび席を外すキャサリンは、「毎日何時間も席を外して、どういうつもりだ?」とハリソンに詰められます。キャサリンは、職場の皆が注目する中で、これまでの不満を爆発させます。翌日、ハリソンは、トイレの「白人専用」というプレートをハンマーで破壊します。「これでどこでも好きなトイレを使えばいい。NASAでは白人も黒人もおしっこの色は同じだ」中盤のクライマックスです。
メアリーは、エンジニアとなるために必要な学位取得のため、これまでは白人にしか許されていなかった学校への入学許可を求める申請を裁判所に提出します。裁判でメアリーは、判事に向かって見事な演説をぶち上げます。「これまで宇宙を人が飛行した前例はありませんでしたが、NASAがその前例を覆しました。同じように、確かに黒人がこの学校で学んだ前例はありませんでした。しかし、私がその一人目になります。あなたの判決が前例を作るんです。」メアリーは入学許可を勝ち取り裁判所の前でガッツポーズを取ります。
キャサリンはより迅速なデータを元に計算をするために、首脳陣のみが出席できる会議に自分も出席させてくれと、ハリソンに訴えます。はじめは「無理だ」と拒否されますが、キャサリンの熱意により「決して口を開くなよ」と念押しされた上で、会議の末席に加えてもらうことに成功します。
会議では黒人女性が部屋に入ってきたことで、他の参加者は戸惑いを見せますが、ハリソンが説明して席を用意してもらえます。自転の速度が問題となったときに、同じく会議に参加していたポールは言葉を詰まらせますが、口を開くなと厳命されていたキャサリンが、数字をボソッと即答します。
ロケットカプセルの落下地点について、「範囲が広すぎる、もっと絞り込んでくれないと回収にいけない」と問題になりますが、ハリソンはキャサリンに「やってみろ」とチョークを渡します。キャサリンは首脳陣の見守る中、黒板にダーッと計算式を書き始めます。落下地点を導き出したキャサリンに一同は圧倒されます。飛行士のジョン・グレン(グレン・パウエル)もキャサリンの頭脳明晰ぶりに「この娘、気に入った!」と感嘆の声をあげます。
NASAに鳴り物入りで導入されたコンピューターのIBMでしたが、使いこなせる人がいません。コンピューター言語を学び使いこなせる人物は、ドロシーだけだったのです。しかも、ドロシーは黒人の計算チームにもコンピューター言語を教え込み、チームを引き連れてコンピュータールームへと移動をします。コンピューター担当へと異動を命じられたドロシーは、「仲間としか移動しません」と言い放ち、結果としてドロシーは、黒人初の管理職に抜擢されます。
ジョン・グレンの乗るフレンドシップ7は、アメリカ初の有人地球周回飛行を試みます。弾道計算は難航しますが、キャサリンたちは「オイラーの公式」が使えることを発見します。
フレンドシップ7の打ち上げ段階になって、IBMの計算が合わず、不安を感じたグレンはロケットに乗ることを躊躇します。そこで、「会議で計算をやってのけた、あのキレ者の言うことなら信用する」とキャサリンに白羽の矢が立ちます。キャサリンの検算により、安心したグレンはフレンドシップ7の乗り、ロケットは打ち上げられます。
順調に見えたフレンドシップ7の周回飛行でしたが、7周する予定がカプセルに異常が見られたため、3週目にして緊急帰還することになります。カプセルの異常のため大気圏再突入に不安がありましたが、アメリカの国中がテレビで見守る中、フレンドシップ7は無事に着水します。
NASAでは、職員一同大喜びで、ハリソンも「よくやった!」とキャサリンに労いの言葉をかけます。「月にも必ず行くぞ」というハリソンに「もう行っていますよ」とキャサリンが答えたところで映画は終わっていましたよ。
3人数学者の実際の写真や功績が示されつつ、エンドロールが流れます。
点数と評価
90点
・2017年に観た映画の中でもベスト3には入りそう。
・ファレル・ウィリアムスの音楽も最高です。R&B好きはサントラもどうぞ。
感想など
最初はてっきりメアリーが主人公かと思って観はじめたら、柴田理恵さん似のキャサリンが主人公でしたね。メアリーを演じたジャネール・モネイはビルボードで5位にランクインしたこともあるアーティストでルックスも可愛いです。あのルックス・バランスはメアリーが主役だと思っちゃいますよ。ジャネール・モネイは、2016年アカデミー賞で作品賞をとったバリー・ジェンキンス監督の『ムーンライト』で、麻薬売人のフアンの奥さん役として出演していて、エロい抱擁力のあるお姉さんを好演しておりました。
『ムーンライト』で主人公の父親代わりの麻薬売人フアンを演じたマハーシャラ・アリは、本作『ドリーム』では、柴田理恵さん似のキャサリンの結婚相手を演じています。マハーシャラ・アリは、本作では紳士な役柄ですが、『ムーンライト』で演じたワルだけど良いやつ、みたいなキャラのがハマってましたね。
セオドア・メルフィ監督の作品は2014年の『ヴィンセントが教えてくれたこと』を観ていますが、ヒューマン・ドラマを説教くさくせずに、上手く撮れる監督だと思っていました。実はセオドア・メルフィ監督は、あの『スパイダーマン:ホームカミング』を撮ることが決まっていたそうですが、それを蹴ってこの作品に取り組んだとのこと。棚ぼたで『スパイダーマン』を撮れたジョン・ワッツ監督はラッキーでしたね(笑)
『ドリーム』は脚本もいいし、役者の演技も作品のテンポもいいし、ホント最高な一本だと思います。実話ベースっていうのも何だかんだ言っても説得力がありますね。最近、実話ベースでエンドロールに本人の写真が出てくるっていうパターンの映画が多すぎな気もしますが、そうは言っても実話ベースは「これ、ホントの話なんだぁ」って思うと感動が倍増しちゃいます。伝記と一緒で影響受けますしね。
キャサリンはじめ、3人の女性が誇り高く自身のキャリアに向かいあっているのものいいし、ジムに初め女性軽視されて「私は〇〇大学を卒業した初の黒人女性よ、軽く見ないで!プンプン」と毅然とした態度をとるところや、図書館で本を泥棒(いや、普通に泥棒だよね、アレw)したドロシーも、大きな目的のためには時として小さなルール違反には目を瞑ってもいいんだよ、みたいなメッセージも好きです。
キャサリンが職場での虐げられたアレコレに我慢の限界がきて爆発するシーンや、メアリーの裁判での演説にはグッときましたし、だからこそキャサリンが黒板に計算式をガリガリと書いていき周囲を圧倒するときのカタルシスには涙が止まりませんでしたよ。
天才を描いた作品って、「いつ天才性を発揮するか?」という問題になってしまって、本質的な努力とは無縁の話になりがちなので「夢実現もの映画」としては、あまり好きではないのですが、本作では不遇な時代背景(女性差別、黒人差別)という逆境があるので、それをひっくり返していく様は、ただただ痛快です。
キャサリンはいつも計算のレポートに署名を書くんですよね。上司の名前と連名で「ポール&キャサリン」みたいな。そのたびに上司のポールに「レポートに執筆者の名前を書くな!」って注意されるんですが、キャサリンは「これを計算したのは私ですから!」って譲らないんです。最後の最後には、上司のポールも何も言わずに署名入りのレポートを受け取るんです。
はじめは「黒人だから」「女性だから」っていうことで差別していた人たちも、だんだん彼女たちの実力を認めざるを得なくなって、最後には頼られて尊敬されるようになっていくストーリーには本当に勇気をもらえます。
原作本です。原作ではドロシーが主人公なんです。
タイトル:私たちのアポロ計画?
配給の点では、邦題が良くないですね。「ドリーム」って単語だけ聞いても概念が広すぎてイメージが沸かないですよ。もうちょっと気の利いたタイトルをつけてもらいたかったと思います。
当初は「私たちのアポロ計画」という副題がついていましたが、主にネット民から「マーキュリー計画であってアポロ計画じゃねーだろ!」というツッコミによる炎上(?)があって、この副題は消えました。そんな経緯もあって「ドリーム」だけになった訳ですが、どうせなら全く違うタイトルにしても良かったと思いますけどね。
ジョー・ジョンストン監督の『遠い空の向こうに』なんかだと、原題は「October Sky」です。原作の「Rocket Boys(ロケットボーイズ)」のアナグラムになっていたりするんですが、おそらくこれを受けて町山智浩さんは『ドリーム』じゃなくて『ロケットガールズ』でいいんじゃないか、なんてどこかで言ってましたね。
特に有名な女優さんが出ているわけでもないので、タイトルでズドンといかないとせっかく最高な映画なのに、日本の観客に観てもらえないですよ。
原題:Hidden Figuresの意味は?
英語の原題『Hidden Figures』は、「隠れた姿」「隠れた人物」という意味です。日本語っぽくすると「知られざる人たち」みたいな感じでしょうか。”Figures”には「数字、計算」という意味にもかけていると思われますので、意訳すると「歴史に隠れた数学者」という感じでしょうか。
ファレル・ウィリアムスの音楽も良いです
代表曲”ハッピー”で有名なファレル・ウィリアムスがサウンドトラックを手掛けています。R&Bやソウルが好きな方はサントラもおすすめです。レイラ・ハサウェイやメアリーJ. ブライジ、アリシア・キーズなんかも参加しています。
60年代風のソウルですが、全部ファレル・ウィリアムス書下ろしの新曲です。
映画のサントラを買ったのは、『ラ・ラ・ランド』以来です。
ファレル・ウィリアムス最大のヒット曲”Happy”を貼っておきますね。中毒性がヤバすぎます。
『ドリーム』と併せて観たい映画
草創期の宇宙開発ものだと、マーキュリー7について詳しく描いたフィリップ・カウフマン監督の『ライトスタッフ』(1983年)がおすすめです。
『ドリーム』ではサラッとしか触れられていませんでしたが、帰還ポッドを海に沈めてしまったガス・グリソムの可哀想なエピソードや、マーキュリー7の中で一番初めに宇宙へ行ったアラン・シェパードが、打ち上げを待つ間に尿意をもよおし、結局は宇宙服の中をオシッコまみれにしてしまう面白エピソードも。
もう1本は、ジョー・ジョンストン監督の『遠い空の向こうに』(1999年)です。この作品、ぼく大好きで何回観てもジーンときます。「アメリカ宇宙開発の父」と呼ばれたフォン・ブラウン博士に憧れる炭鉱の街で育った高校生が仲間たちとロケット開発の夢を追う、熱い話です。主人公を鼓舞する女性教師が「人生には他人の言うことを聞かなくていいときもあるのよ。自分の心の声を聴いて」というシーンが好きです。主演は若き日のジェイク・ギレンホールです。
どちらも面白いので、本作の鑑賞前でも、鑑賞後でも、ぜひ合わせて観てみることをおすすめします。
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